アキマサにはズボンは自分で履いてもらうようにしている。
“ズボン履いて”と渡すと
まるで染色職人が生地の染まり具合を確認するかのようにズボンを目線まで上げ、前後ろ前後ろと確認する。
そして履く動作に入るが、そのズボンの前後ろは時々間違っている。
それはさておき。
前かがみになりズボンは床近くまで下ろす。手はズボンを握ったままくるぶしの辺り。必ず右足から”よいしょ”と言うぐらいの時間の長さで足を入れる。
本人は何も言わない。
それから所作が始まるのである。くるぶし辺りにあった手は、ズボンを握ったまま膝の辺りまで上がったと思ったらまた下がり、上がってはまた下がる。それを繰り返すこと数分。時には数十分。それは何かの指令が天から降りてくるのを待っているかのようだ。
そしてついにその時はやってくる。
一気にズボンを腰上までたくし上げ、片足立ちで綺麗な”命”のポーズが現れるのである。そして私は間髪入れずに声をかける。
“ハイ〜いのちっ!
そして左足を入れ、両足を入れたズボンを必要以上に上げ、まるで体幹の強さ誇示するかのようにズボン履きの儀式は終了する。
あっくん、毎日長いょ…
アキマサの”いのちのポーズ”は天と繋がっているに違いない。
たぶん。