玄関ホールに展示中のカプラ作品に心がザワついたハルエモン。作者であるジャイアン君がスズランテープを張り、作品にふれないで!という意思表示をしているにも関わらず、わざわざ入り込み、カプラを積もうとしたハルエモンに対して、お母さんが何度も制止を試みるも、どんどんエスカレート。堪忍袋が切れたお母さんは激高し、彼を外に連れ出そうとするも力及ばず、結局ボクが彼を連れ出して、落ち着くのを待った。
あれから1週間。自宅では、お父さんにもこっ酷く叱られ、謝罪の手紙まで書いたハルエモン。今日は、その手紙を持参してジャイアン君とボクに謝罪したいというので、教室に招き入れた。そして、手紙に目を通すと、他人の作品に手を出したボクが全面的に悪い。二度としません。ジャイアン君にも謝りたい。という趣旨で書かれていた。お手本通りのお手紙になるほど…と思ったボクは、次にその心について、本人の口から直接聞くことにした。彼はスッキリしない表情で手紙の内容をそのままなぞるように話しているため、音としては聞こえるものの、彼の「ことば」として一切ボクには届かない。
「今、何考えてる?絵を鑑賞した時のように感じていること、頭に思い浮かんでいることをそのまま言ってごらん。」というボクに、吃りながら「…、…、…。…、ことばがないとわからないよ。」とポツリ。
この「ことば」は、しっかりボクに伝わってきた。
なるほど!!
この半年間、カプラエリアは誰でも参加できるフリースペースとして開放していた。そこに、大作を作ったジャイアン君が自分の作品を守るためにスズランテープで意思表示をしたのかもしれないけれど、ボクはきちんと「ことば」で伝えてもらわないとわからないということなのだ。そして、胸のつっかえがとれたのか、ハルエモンは、手紙の内容は本意ではないことも伝えてくれた。お母さんが感情的に制止した時、お母さんやボクがきちんとことばで説明していたら、そして、ハルエモンも行動をエスカレートさせるのではなく、「なんで?今まではさわってよかったでしょ。理由を教えて。」ということばが出ていれば、事態は変わっていたかもしれない。ことばの教室を運営する者としてボクは彼に頭を下げ、そんなボクに彼は頭を下げ、謝罪し合った。そして、今後は今まで以上に「ことば」を意識して、共に活動をつくっていくことを約束した。
帰り際、ハルエモンのことばがない手紙はもらっても嬉しくないということを伝えた。すると、彼は「先生が好きにしていいよ。」と言ったので、「だったら封筒に“うその手紙”と書いてよ。」とお願いした。彼は一瞬ためらうも「うその手紙」と書き、スキップをしながらお母さんの車に乗り込んだ。
そんなこんなの結末をお母さんに伝えたところ、「なんでやねん!!!」と激しいツッコミを入れつつも、自分の思いをことばにできてスッキリしている我が子を見て、心からの笑顔になっていた。