2年間作ってきた1500体以上の野球選手には、一切「耳」と「腕」がなかったが、BIG BOSS新庄から強い刺激を受け、初めて「耳」を描いたハルタニ。その後も、テレビで度々“ビッグボスポーズ”をとる新庄を目撃しては興奮していたため、間もなく選手から「腕」が生えてくるものと思っていたが、そのまま進化することはなかった。
そんなある日のこと。入園以来、ハルタニに初めて野球友達ができた。ハルタニの2つ上の年長さんで、三度の飯より野球を愛するけいくんだ。けいくんは早速、友達になった証として、ハルタニが敬愛する阪神タイガースの鳥谷敬選手の鉛筆をプレゼントしてくれた。ド真ん中にズドーンと突き刺さる直球を受け取ったハルタニは、帰宅後、けいくんのためにできることを考えた。
翌朝、ハルタニは、登園前のルーティーンで、けいくんが崇拝している元横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手を作リ始めた。身長が185センチある筒香のために少し大きめのダンボール板を選ぶと、足、胴体、首、顔、帽子、そして「耳」を描き、勢いそのままに「腕」を描いた。何の前ぶれもなく、突如生えてきた「腕」に動揺しながらも、「まさかの腕だね?」と声をかけると、
「けいくんがウルトラスーパーめっちゃ大好きだから、ポッケから手を出したんだよ。」
とのこと。これまでは、自分の世界だけでひたすら選手作りをしてきたハルタニ。もしかすると、ポッケから手を出した筒香は、ハルタニが初めて家族以外の人間に対して、野球への思いを開いた証なのかもしれない。
筒香は今、選手のサインボールやグローブが並ぶけいくんのコレクションエリアに、ちんまりと佇んでいるようだ。