ピオルネと過ごした短い夏A short summer spent with Piorne

行為者|息子と父Actor|Son and father

発見者|母Finder|Mother

あいにくの雨模様の中、混み合う車内で、背丈の低い息子は立ったまま、大人たちの間に挟まれて外の景色をうまく見ることができませんでした。退屈を持て余した息子は、なんと父の腕毛を抜き、自分の腕に移植しては、声を殺して笑っているのです。
 
やがて、その毛はエアコンの風にあおられて舞い散り、乗客が減ったころ、最後の一本だけが残りました。そのとき車窓の外に見えた「ピオルネ」という看板の名を授け、息子はその毛を“旅の友”としたのです。
 
「ピオルネ」と名づけられた一本の毛とともに、息子は景色を眺め、動物園を目指しました。ところが途中で、ふと顔を伏せて涙ぐみます。
 
「ピオルネがいなくなった…」

すると父が、息子のマスクに付着している細い毛を見つけて一言。

「ピオルネは、まだ生きてるよ。」
 
その瞬間、息子の顔にぱっと笑顔が戻り、彼は毛を紙に包んで大切にポケットへしまいました。
 
動物園では、ポケットの中のピオルネとともにトラのお尻を観察し、トラの金玉の縞模様に心を奪われていました。
 
夜、帰宅して紙を広げると、そこにピオルネの姿はありませんでした。
風にさらわれたのか、それとも自由を求めて旅立ったのか。
一本の腕毛と過ごした、息子の小さな冒険は、静かに幕を閉じたのでした。