マイケルの傾斜角から押し返されたアキマサの歩き出しのタイミングは、壁などに足の側面を当てながら進む。家の廊下は左右の壁に足をドン、ドンと当てながらその幅を確かめるように進む。駐車場に車を停めた時などは、隣の車のタイヤに足の側面を当てたりするので、人が乗っていないかヒヤヒヤしながら進んだものだ。
散歩中の道路に続く縁石の側面には足が磁石のようにくっついてしまうようで、どれだけ彼の手や身体を引いてもその足は一定時間を経過するまで離れない。本人の少し困ったような表情や私たちに引っ張られて身体が前のめりになっても、大股で股が裂けそうになっていても、くっついた片足は離れてくれないように見えた。くっついていたのだ、きっと。
無理に手を引っ張ることもあったが、時には「くっついちゃった~」「離れない~」と困り顔の彼に言葉を乗せながら、一緒に時間の経過を待った。
「忙しなく生きなくてもいいよ」と私たちの日常に促されているようだった。