吃音とうまくつき合う方法を見つけようと、ことばの教室に通級しているペイペイ君。彼との時間はいつもノーガードで始まる。今日は、自作の紙芝居『薬物中どく者とクレイジーマン』を持参し、ボクへの読み聞かせからスタート。薬物中毒者の捜査で自らも薬物に手を出すようになった警察官と交通事故を機に幼児返りした青年が、共通の敵をつくって仲良くなるというストーリー。全く理解不能な内容の上、在籍学級でブームを巻き起こしたいとまでボケる彼に、「ならばキャラクターグッズをつくったらどう?」とツッコミを入れたところ、彼はTシャツづくりを決意。薬中とCマンブームがやってくる未来に思いを馳せていた。
そして翌週。一世一代の大仕事とあってか、デザインからプリントまで細部にこだわり、丁寧に作業を進めるペイペイ君。完成し、身につけた自分を鏡で見た時は、体をのけぞらせるほどの喜びようで、そんな我が子にお母さんも最上級の笑顔になっていた。この創作で根拠のない自信を得たペイペイ君は、薬中とCマンブームを巻き起こすべく、お母さんの車で颯爽と在籍学校へ向かっていった。
さらに翌週。Tシャツを身につけてことばの教室に凱旋した彼はニヤニヤと、何か言いたげな表情で登場した。
「先週、そのTシャツを着て学校に行ったけど、どうだったの?」
「ちょうど、避難訓練が終わって教室に戻るところだったから、階段の上に立ってみんなを迎えたんだよ。オレのTシャツを見て、みんなスゴッ!ヤバッ!って言ってたよ。」
お母さんの話によれば、冗談のようなことを本気でやってしまった彼をポジティブに受け容れてくれる友達が多く、クラスで一目置かれる存在になっただけでなく、ここ最近は、吃音の症状も軽くなっているとのこと。そんな彼にたまたま手元にあったマグリットの絵を見せたところ、次のような物語をつくった。
空にあるのが太陽で、地面にあるのが月。階段を上って空に浮かぶ太陽は、いつも人間から注目されて人気者になっている。月も階段を上ることができれば、人気者になれるんだけど、空に浮かんだ時にはいつも人間は眠っていて、誰からも注目されない経験をしているから、石のように固まってジッとしている。
なるほど!!大納得!!で、今回の君は、一大決心をして階段を上ることができたわけやね。
吃音をもつペイペイ君だが、彼の発想や行動に一切吃りはない。
そんなボクの思いをラオウのメッセージとして、お母さんとのお手紙ファイルに入れておいた。