昼休み。
スタッフの山根は毎日ミニサイズのカップ麺を食べている。
ポットのお湯を入れて事務所に戻る道中、
必ずHhさんが山根に「見るだけ？」と声をかける。
 
見るだけ。
お湯の入ったカップ麺をHhさんに渡すと、
Hhさんはフタをあけて、おもむろに口を近づける。
匂いをかいでいるようだけど、カップのふちにちょっと口が触れている。
 
く、口ついてるよ…
 
終わればすぐに返してくれる。
 
 
山根は考える。
（食べたいのかな）
（普段の生活のなかで、Hhさんはカップ麺を食べることがないのかもしれない）
（本当は食べたいカップ麺を毎日「見るだけ（かぐだけ）」なんて、生殺しじゃないか）
 
Hhさんから見えてしまうから気になるんだ、と、
「はてなボックス」を作って、そこにカップ麺を入れて持ち歩いてみる。
（確かにHhさんはカップ麺にこだわらなくなったけど、視線は感じるなぁ）
（ていうかボックスのなかでスープがこぼれて良くない）
 
支援会議でも悩みを共有してみる。
「山根さんがわざとやりとりを楽しんでるのかと思ってた」
「いやカップ麺は純粋に僕のルーティンで…」
「Hhさんがそのやりとりで調子を崩しているわけでもないから、このくらいのやりとりは応じてあげてたらいいんじゃないですか」
「うーん」
 
 
結果、山根は「はてなボックス」に入れることなく、
以前のようにカップ麺をそのまま持ち歩き、
Hhさんが「見るだけ？」と声をかけるやりとりが続いている。
 
時々、Hhさんが山根の動きを見逃していて声がかからないことがある。
あれっと思いつつ食べ始めると、
Hhさんが思い出して事務所まで入ってきて「見るだけ？」と言われる。
 
さっきは2回匂いをかいだ後、カップ麺を返す時にニヤッとしていた。
 
（いつかすすられるんじゃないだろうか…）
 
2人のルーティンは続く…