枕話と言っては何ですが、三〇しをんさんのエッセイは日常をゆるーく、それでいて面白く書いたものです。(ですよね?(笑))僕は、そんなふうに書くのが得意なので、おそらく、それに近いものを求めていらっしゃるであろうこの公募に最近あったことをまとめようと思った次第です。
その日も、僕は近所の公園に出かけ、ぼんやりと公園の遊具を観察していましたが、ふと、おかしなことに気づきました。ベンチに腰掛け、目の前にある滑り台を観察していると、子供が一人滑り台を逆走していました。それを止めようと思ったのですが、おかしな光景があって、止められなかったのです。
子供は、小学校に入ったかどうか、ぐらいの背丈でしたが、それが滑り台を這い這い進んでいき、頂点まで少し、というところまで達すると、ふと、こちらを振り返ったのです。
「アブナイ!」と僕は思い、立ち上がって声をかけようと思ったのですが、子供のほうがはやかったのです。「ウサギくーん、トラくーん(もちろん、仮名ですが)」と声をはりあげました。
声につられて、ウサギくんとトラくんが滑り台の山麓までやってきて、彼らもまた、滑り台を這いあがっていきました。
ウサギくんとトラくんも、「カメくーん、クジラくーん」と呼びました。カメくんがやってきました。
海からあがるのにてこずったせいなのか(この公園は海と接していないので、もちのろん比喩ですよ?)クジラくんが滑り台の山麓に到着するのは少し遅れました。
クジラくんがその巨体を生かして直ぐに這い上がっていって、カメくんよりはやく頂点に達すると、「ネコくーん、サイくーん」と呼びました。
こんなふうに、行列はどんどんつながっていき、小さくなった箱根の山を、小さくなった江戸の男たちが参勤交代のためにはいあがっていくような、そんな光景に思えたのです。
たぶん、行列の最後尾、18人か19人目の人は、ウサギくんたちの集団ではないでしょう。ただ、近くにいて、面白そうだったから入っていったのでしょう。
気持ちはわかる。ただ、滑り台這い上がる行列に入っていくことが、そんなに楽しいか?
もうウサギくんやトラくんは、頂上の斜向かいにある別の滑り台をくだりはじめていました。参勤交代を終えて、回り道して帰っていく男たちにも見えて、それは珍妙であるとともに、僕はその光景をすっかり受け入れてしまいました。
僕は、思わず吹き出して、しばらく笑い続けていましたが、すぐにやるべきことを思い出して、「おい、きみたち、危ないよお」と叫びながら、滑り台へ走っていったのです。
ここからは、熱狂がさめて、僕が公園から帰りながら考えている、いわば後日談のようなものになりますが、おもい返せば、あのとき、誰もけがしなかったのが不思議なくらいで、参勤交代の人たちが去って行ったあと、滑り台のあたりには、見えないバリケードに囲まれた土地のように、荘厳で静かな雰囲気が漂っていたのでした。
