ある夏の日。
アトリエぬかごっこのY君と過ごす中でこんな話が出てきた。「魔法陣とか描いてみたら面白いんじゃね?」元々幾何学的な美しさに造詣の深いYは、そこから一つの即席魔法陣をこしらえる。おお、何かそれっぽいじゃん。よく見れば細かい隙間に何か呪文的な何かが書き込まれている。「コレ行けるやつ!」直感的にそう確信した我々は、そこからより魔術的な雰囲気を盛り上げるべく試行錯誤を繰り返した。窓からの光を段ボールで遮り部屋を閉め、ほの暗い部屋にした後、魔法陣の真ん中に少しだけ光が当たるように照明を調整する。「あ、そういえばハロウィンで使った血のりがあるじゃん」気がつけばどこからともなく現れた小人人形が魔法陣の真ん中に置かれている。「何コレ?」「これは生贄」「生贄…??」爆笑するY君と仲間たち。気がつけば少しずつ異様な熱が室内にはこもり始めていた。しかし何だろう。一つずつ背徳感を越えていく度に、確かな高揚感と一体感が生まれていくのを肌で感じる。この熱がどこに着地するのを見てみたい。そう思いながら自分も色々とアイディアを投下していく。「前に作ったスライムを使ってみたら、もっと実験体っぽくなるんじゃない?」「紙粘土とか濡らしてみようぜ」「早く材料持ってきて??」円陣の周りに散らばるスライムやジオラマの破片たち。色鮮やかなチョークの粉。真ん中には様々な人形とよく分からない粘土っぽい何か。準備は整った。というかそろそろ活動の時間が終わりそうだ。Yたちはその円陣を作り上げた果てに何かが起きるのを期待し目を爛々と光らせている。しかし。コレはあくまで魔法陣ごっこだ。奇跡は自分たちで起こすしかないのであった。ええい、ままよ。気がつけば円陣の周りに散りばめられた全ての素材が真ん中に集まって何だかよく分からない物体が転がっていた。「俺たちはやったんだ。」爆笑と感動を共有したYとその仲間たち。しかし何だろう。かなり際どい世界の深淵を覗いた気がしたのは自分だけだろうか…。けれど、その際どさこそが魔法陣というものの魅力の正体だったのかも知れない。
ある夏の日。こうして我々は、黒魔術部としての誇りとよく分からない団結力を手にしたのであった。